会社が倒産した、雇い止めにあった、ブラック企業から避難した、他にやりたいことができたので勉強することにした・・・など様々な理由から退職し、しばらく定職につかない環境に身を置く(もしくは置かざるを得ない)ケースがあるかと思います。
そうした時に生活を守る術として公的に用意されている仕組みに失業保険があります。
今日はそんな失業保険に対して、「独立するために退職をした場合に失業保険は出るの?」、「開業届けを出してしも収入がない間は失業保険は受け取れるの?」、「そもそももらえたとして、いくらもらえるの?」と質問を受けましたので、そんな疑問にお答えしようと思います。
■目次
▶1.そもそも失業保険とは?
▶2.失業保険の金額
▶3.失業保険を受け取れる条件
▶4.開業届けとは?
▶5.開業届けを出すことのメリットとデメリット
▶6.独立開業する人は失業保険を受け取れるのか?
1.そもそも失業保険とは?
一般的に失業保険と呼ばれる保険ですが、正確には「雇用保険の失業等給付」の内、「求職者給付の基本手当」となります。
雇用保険では、働く意思と能力があるにも関わらず仕事に就けない状態を「失業」とみなし、ハローワークで手続きを行うことで、手当の給付を受けられます。
雇用保険は国が保険者となり、労働者が失業した際にこうした給付を行う他、職業に関する教育訓練などの給付も行い、労働者の生活や雇用の安定を図ることを目的とした公的な仕組みです。
2.失業保険の金額
2-1.1日当たりの金額
基本手当として受給できる1日当たりの金額を「基本手当日額」と呼びます。
この「基本手当日額」は、退職前の6ヶ月間に支払われた賃金日額のおおよそ50~80%(60歳~64歳については45~80%)となるよう設計されています。
つまり、実際に自分が失業保険としていくら受け取れるのかは、一律に決まっているわけではないのです。
金額は働いていた際の賃金によって変わるため、ご自身の金額を正確に把握するには以下の2つのステップを踏んで計算します。
①賃金日額の計算する
まずは退職前の給与明細をご用意頂いて、退職前6ヶ月間の「賃金日額」を計算する必要があります。
賃金日額はご自身の退職前6ヶ月間に支払われた賃金総額を180で割って算出します。
この賃金総額には賞与(ボーナス)は含めませんが、残業代等は含めて計算します。
②年齢ごとの上限額と比較する
賃金日額は離職日の年齢によって上限額が定められています。
そこで、①で計算したご自身の賃金日額と以下の表を比較してください。
どちらか「低い方」の金額がご自身が基本手当日額として受け取れる1日当たりの給付金額となります。
(平成28年8月1日現在)
30歳未満 | 6,370円 |
---|---|
30歳以上45歳未満 | 7,075円 |
45歳以上60歳未満 | 7,775円 |
60歳以上65歳未満 | 6,687円 |
2-2.給付を受けられる期間
基本手当が受けられる日数を所定給付日数と言います。この所定給付日数は退職理由や退職時の年齢、保険者期間(会社に雇用されていた期間)によって以下のように異なります。
■自己都合 / 定年などによる退職の場合の所定給付日数
(このケースが多いかと思われます)
被保険者期間 | 1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 |
全員 | なし | 90日 | 120日 | 150日 |
■倒産 / 会社都合の解雇などによる退職(特定受給資格者)
被保険者期間 | 1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 |
30歳未満 | 90日 | 90日 | 120日 | 180日 | - |
30歳以上35歳未満 | 120日 | 180日 | 210日 | 240日 | |
35歳以上45歳未満 | 150日 | 180日 | 240日 | 270日 | |
45歳以上60歳未満 | 180日 | 240日 | 270日 | 330日 | |
60歳以上65歳未満 | 150日 | 180日 | 210日 | 240日 |
■就職困難者(例: 障害を持つ方など)
被保険者期間 | 1年未満 | 1年以上 5年未満 |
5年以上 10年未満 |
10年以上 20年未満 |
20年以上 |
45歳未満 | 150日 | 300日 | |||
45歳以上 | 360日 |
情報元: ハローワーク
2-3.給付金額
以上のA.とB.を見て頂いて、ご自身の「基本手当日額」と「所定給付日数」が明らかになったかと思います。
給付に当たってはハローワークに申告して、4週間ごとにまとめて給付を受けるため、基本手当日額 x 28日(4週間分)が1回当たりに給付される金額となります。
いつ次の職に就けるか次第で総額は変わってきますが、もし所定給付日数を経ても再就職に至らなかった場合は、「基本手当日額」 x 「所定給付日数」 = 「給付総額」となります。
3.失業保険を受け取れる条件
基本手当は公的な仕組みですが、雇われていた人なら誰でも受け取れる制度かというと、そういうわけではありません。
「離職の日以前の2年間に、被保険者期間が通算して12ヶ月以上ある場合」に給付してもらえる仕組みです。ですので、働いてみて半年経ったところで、会社の雰囲気が合わないので辞めたなんて場合は給付を受け取れないのです。
ただし、倒産や会社都合の解雇などの理由で離職の場合は特定受給資格者として扱われます。
この場合は離職の日以前の1年間に、被保険者期間が通算して6ヶ月以上ある場合に受給資格を得られます。
また、派遣社員 / 契約社員の方で、契約期間満了の際に更新されなかったために離職した状態の場合、この特定受給資格者と同じ扱いとなります。
さて、雇用されている期間が十分条件を満たしていると分かった場合、次に行う手続きは失業の認定を受ける手続きとなります。
この手続きに関しては冒頭の質問への回答とそれますので、改めて別記事で紹介したいと思います。
4.開業届けとは?
新たに事業を始める人は税務署に開業届けを提出しなければなりません。これは所得税法で定められています。
[概要]
新たに事業を開始したとき、事業用の事務所・事業所を新設、増設、移転、廃止したとき又は事業を廃止したときの手続です。[手続根拠]
所得税法第229条[手続対象者]
新たに事業所得、不動産所得又は山林所得を生ずべき事業の開始等をした方[提出時期] 事業の開始等の事実があった日から1月以内に提出してください。
なお、提出期限が土・日曜日・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となります。
個人事業の開業・廃業等届出書(提出用・控用)(PDF/364KB)
書き方 (PDF/155KB)
5.開業届けを出すことのメリットとデメリット
とはいえ、Webの記事などを見ていると、実際には開業届けを出さなかったら罰則があるのかというとそういうわけではないようです。
ただ、開業届けを出さないと税制優遇措置が受けられる青色申告もできないので、実際に事業を営んで利益を出す人は提出した方がよさそうです。
法律で定められているので本来はメリット / デメリットで語るべきではないのかもしれませんが、敢えてそれぞれの視点で見てみたいと思います。
A.開業届けを出すことのメリット
・法律に則っていること
・社会的な信用を得るため
・青色申告で節税
・屋号で銀行口座を開設するため
B.開業届けを出すことのデメリット
・失業保険(雇用保険の基本手当)を受け取ることができなくなること
長々と記事を書いてきましたが、冒頭の質問に対しての回答がここでした。。。
1.で書いたように『雇用保険では、働く意思と能力があるにも関わらず仕事に就けない状態を「失業」とみな』すため、収入があろうがなかろうが、開業届けを出した段階で仕事に就いたと判断されるためです。
ですので、
・本格的に事業を営んでいく方 ⇒ 開業届けを提出
・独立するかまだ悩んでいる方 ⇒ 開業届けは出さず、まずはよくプランを考えること
とするのが良いように思われます。
6.独立開業する人は失業保険を受け取れるのか?
結論としては「受け取れない」です。
万一受け取ってしまった場合は「不正受給」となり、返還命令を受けて受け取った基本手当を返す必要があります。
また、更に受け取った金額の2倍以下の額を返還するお金とは別に返さなければならなくなり、結果、受け取った額の3倍返しとなるなどペナルティが大きく課されることになります。
特に2016年(平成28年)からマイナンバー制度が始まりましたので、こうした不正受給はまずバレると考えた方がよいでしょう。